スタッフBLOG
ポイント①
構造設計の重要性
◉木造住宅の多くは建築基準法で定めた壁量計算で耐震性能を検討している。壁量計算とは耐力壁の強さ(許容せん断耐力)に応じて設定された壁倍率を用いて、決められた壁量を満たすように計画する手法だ
◉壁量計算は仕様規定であり、規定の耐力壁の量を満たせば法で定めた耐震性能が確保できるように考えられている。この手法を用いると「決められた仕様を守ればよい」という考え方になる
◉間取りの自由度を保ちながら耐震性能を確保するには、「決められた仕様を守ればよい」という考え方から「必要な性能を確保するにはどうするか」という考え方に変える必要がある
◉そのための手法が構造設計だ。構造設計には多様な手法があるが、木造住宅の場合、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」の許容応力度設計法が普及しつつある
この設計法により構造設計を行うことで耐震性能を確保しながらプランの自由度は大幅に高まる
ポイント②
建築基準法は倒壊を免れる程度の耐震性能
◉建築基準法は建物の最低基準を定めたもの。耐震性能については、大地震時にぎりぎり倒壊を免れて、人命を守れる程度の耐震性能を前提として壁量計算などの仕様を規定している
◉品確法の性能表示制度においては、建築基準法で定めた耐震性能を耐震等級1と位置づけている。その上で大地震時の被害がより少ない等級 2・3という上位等級を設けている
◉注意が必要なのは「耐震等級1=壁量計算を満たす」ではないことだ。品確法では耐震等級を評価するために建築基準法にはない規定を設けているためだ
その規定に従って耐震等級1となるように壁量を求めると壁量計算とはまったく異なった結果が出る
◉品確法の耐震等級1の場合、軽い屋根で壁量計算の1.2倍強、重い屋根で1.4倍弱の耐力壁が必要になる。品確法の目標性能に照らすと建築基準法の壁量では倒壊のおそれがあるということになる
造成地における事故
激甚化する自然災害、予測を超え毎年のように繰り返される「過去に例のない豪雨」のニュース。テレビ越しに見る水害の映像から『水害は怖いし、水害の心配のない高台の見晴らしの良い土地がいいなぁ』そんな思いを持って土地探しをしている方も多いのでないでしょうか。
ところがそんな思いを持って土地を探している人が目を疑う映像が今年連続して発生しました。地面が崩れ、流れ出る衝撃…。
2021年6月25日、大阪市西成区の住宅地で擁壁が崩壊し、2棟(計4戸)の住宅が崖下に崩落する事故。当日に在宅していた3人は、事前に避難して事なきを得ましたが、住宅裏の崖が崩れ、家が倒壊し残った1棟も崖下に引っ張って解体した映像に驚いた方も多かったのでないでしょうか。
そして翌月の7月3日に静岡県熱海市の伊豆山付近で発生した大規模な土砂崩れは周辺の家屋を飲み込み多くの人命と財産を奪いました。この災害では起点付近で造成された「盛土」が法令基準を大幅に超える高さであったと指摘され元の所有者に遡って責任問題となってきています。
二つの事件は、原因も内容も違うものですが丘陵地における宅地の危険性を考えさせられる災害でした。
大阪の擁壁崩壊は、土と石のみでつくられた石積みの内側から、長い年月で土が流れ出たことが原因だと考えられています。
造成工事とは…
先に紹介した丘陵地だけでなく、宅地化にともない大小はありますが造成工事は必ず実施されていると思って間違いありません。それでは、造成工事とはどんな工事なのでしょう。
造成工事とは一般的に傾斜になっている土地や山、段差のある田んぼや畑がある土地を、宅地や駐車場など用途にあわせて活用できるように整備する工事のことです。
ただ土地を平らにすればいいという単純なものではなく、地震などの災害時でも安全性が配慮される必要があります。そのため宅地造成等規制法にもとづいて、対象となる宅地造成には区域内の都道府県に申請しなければなりません。
造成工事の種類
●土地の形状を整える
宅地化する前の土地の多くは土地の状況にあわせて変形しており、そのままでは効率的な宅地になりません。そこで土地の有効利用を進めるために造成工事を行い土地の整形化を図ります。
●土地の高低差を整える
田んぼや畑、湿地や沼など道路より一段低くなっている土地は、道路との利便性をあげるため埋め土などの造成工事をする必要があります。
また、傾斜のある土地でも平らな宅地をつくるため「切土」や「盛土」と呼ばれる造成工事を行います。
●土地の土質を整える
田んぼや沼など宅地として向かない土質の場合は、現況の表土を取り除き宅地に適した土に入れ替える工事を行います。
その他に宅地の場合は、インフラと呼ばれるガス・水道・下水道の設置、宅地の排水路(側溝)や大規模な造成工事の場合は雨対策として宅地の面積に合わせた調整池の設置などを含めて造成工事と考えられます。
擁壁をチェックする
団地造成した宅地を見て歩くと、高低差のある土地に造られた擁壁を目にすることがあると思います。実は、この擁壁をよく見ることで危険な造成地を見分けることができるのです。まず見てもらいたいのが「擁壁の種類」です。擁壁の種類は大別して3つ。
■ 石積み擁壁
石積み式の中でも「空石積み擁壁」と「練り石積み擁壁」の2種類があり石やブロックを積んだだけの「空石積み」
に比べ石やブロックをコンクリートで固めた「練り石積み」の方が強度があるといわれています。どちらも古い住宅地で見かけられる擁壁で強度的に注意が必要な場合が多く見られます。
■ ブロック積み擁壁
正方形や長方形のブロックで作られた擁壁で一般に「間知ブロック擁壁」と呼ばれています。住宅地で5mくらいの高低差がある場所で多く見られます。
■ 鉄筋コンクリート擁壁
コンクリート擁壁は、新しい造成地で多く見かけるタイプで大別すると「鉄筋コンクリート擁壁」と「無筋コンクリート擁壁」に分かれます。現場でコンクリートを打設してつくる鉄筋コンクリート擁壁は、強度が高く垂直に立てることができるため敷地を有効に活用できます。
危険な擁壁とは
擁壁に関する法律である「宅地造成等規制法」が制定されたのが昭和36年ですので、それ以前に施工された擁壁は要注意といえます。また、宅地造成等規制法施行後であっても老朽化やその後のメンテナンス状態では危険な擁壁となっている場合がありますので注意が必要です。
それでは、どんな擁壁が要注意なのかみていきましょう。
① 空積み擁壁
擁壁の種類で説明した「空石積み擁壁」で石を積み重ねただけでコンクリートで一体化していないため高くなるほど不安定な状態になります。
ちなみに大阪市の西成で発生した崖崩れは空石積み擁壁が崩壊した結果発生した事故でした。古い石積み擁壁は、たわみや水漏れなどが発生している場合は危険な兆候で要注意といえます。
② 増し積み擁壁
もともとの擁壁の上に後から増し積みした擁壁です。このような擁壁は、全体の土圧や水を含んだ時の荷重を考慮していないことが多く、危険な擁壁といえます。
③張り出し床板付き擁壁
土地の有効活用のため、既存の擁壁の上に床板を突き出した状態の擁壁です。張り出した部分の土台が不安定です。
④二段擁壁
擁壁のすぐ上に新たな擁壁を積んだ状態の擁壁です。安全性を確認し、場合によっては擁壁をつくりなおす必要があります。
擁壁の状態をチェックする
危ない擁壁の形状を紹介しましたが、危ない擁壁の形状だけでなく擁壁の状態も注意深く観察することで危険な状態にあるか判断することも可能です。危険なシグナルとして代表的なものは…
□ 亀裂、ズレ
石積みやブロック積み擁壁では、亀裂やブロックなどがズレているケースがあります。このような擁壁は、すでに危険な状態で水害や地震の時に大きな被害を発生させる危険があります。
□ 膨らみ
石積みやブロック積みだけでなく、既製品のコンクリート擁壁を並べた場合も、土圧によってズレや膨らみがでているケースがあります。このようなケースも危険な状態といえます。
□ 水抜き
擁壁には決められた基準で水抜きが施工されています。水抜きの穴がない、詰まっていて排水されていないなどの状態が見れる場合は、土圧以上の力が加わっている場合があるので要注意です。
このような状態は、危険性だけでなく宅地内の排水がうまくいっていないケースが考えられ宅地としても要注意です。
擁壁から判断できる危険性をまとめてきましたが、造成地では擁壁だけでなく周辺環境をよく見ることで危険を回避できるケースもあり
ます。
周辺の状況も観察する
宅地やそれに接する擁壁だけでなく、宅地の周辺も観察しながら歩いてみましょう。そこには、危険な造成地のサインが隠れているかもしれません。
観察するポイントは、①道路や側溝との段差や隙がないか②近隣家屋で基礎、犬走のクラック(ヒビ)がないか③擁壁などに苔がないか、ジメジメしていないかなどがわかりやすいポイントです。
造成地で起こる不同沈下の種類
擁壁にスポットを当てて危険な造成地の見分け方をみてきましたが、一見平らに見えて安全そうな宅地にも危険は隠れています。
見えないリスクのおかげで、不動沈下を起こしてしまわないように宅地の成り立ちを事前に不動産会社などに確認しておくことも大切です。
見えない不動沈下の原因としては以下のようなものがあります。
・地中の良好な地盤が傾いている
・盛土が固まっていない/地盤が軟弱
・建物が切土・盛土にまたがっている
・杭が良好な地盤に届いていない 等
いずれも、事前の調査と地盤調査で知ることが可能ですが、予め見えないリスクがあることを知って土地を検討することが大切でしょう
地盤調査と基礎
任せっきりで大丈夫?
地盤調査が終わると、たいていのお客様が試験結果の発表を待つ受験生のように、ドキドキしながら連絡を待つことになります。なぜドキドキするかといえば、地盤調査の結果によって地盤改良工事が「いる」「いらない」と大きな分岐点となるからです。さらにその結果如何によって、地盤改良工事の費用が想定していた予算を上回り何百万となってしまうこともあります。資金計画を大きく狂わせてしまう可能性を秘めている工事が地盤改良工事なのです。
そもそも、地盤改良工事は義務なのでしょうか。
実は、『法律上の義務はありません』。建築基準法では、地盤調査は義務づけられていますが、地盤改良は必ずしも行わなくてはいけないと規定されている訳ではありません。土地の固さで、必要で無い場合もあるわけですから、必ず必要とはなっていません。
ただし、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」によって、地盤調査の結果から、必要とされる対策を講じることが求められ結果、間接的に地盤改良が必要な土地の場合、地盤改良が必須となっています。
地盤改良が必要になる基準は?
一般的な木造2階建て住宅の場合、荷重は11~13kN/㎡で土地の固さ(支持力)が建物の荷重以上あれば沈下しないことにはなります。ところが地盤の強度は一定ではなく、地層ごとの評価、地下水位の有無、造成と元地盤の関係など総合的に判断され判定が行われます。
また、建物の基礎の構造は、「地盤の長期許容応力度が1㎡」につき、
①20kN/㎡未満…基礎杭を用いた構造としなければならない
②20kN/㎡以上30kN/㎡未満…基礎杭を用いた構造またはべた基礎としなければならない
③30kN/㎡以上…基礎杭を用いた構造、べた基礎または布基礎としなければならないと規定されています。(平成12年5月23日建設省告示第1347号 参照)
【基礎杭】
基礎の底面からを堅い地盤まで届くコンクリートの杭を打ちます。
【べた基礎】
家を建てる地面全体に、鉄筋コンクリートを流し込み、コンクリートと鉄筋で、建物の沈下を防ぎます。建物の床下がすべてコンクリートで覆われるので、湿気やシロアリに強い基礎です。ただし、強度が増す分だけ、基礎工事の費用が高くなります。
※立上り部分の高さは地上部分で30cm以上と、立上り部分の厚さは12cm以上と、 基礎の底盤の厚さは12cm以上。
【布基礎】
逆T字状鉄筋コンクリート入りの基礎を柱や壁の下に奥深く(地面から深さには24cm以上)打つ工法で、柱と柱の間は、床下に土が見える部分があります。コストは、ベタ基礎より安く抑えられますが、湿気やシロアリについては対策が必要です。
※底盤の幅は、地盤の強度と建物の種類によって変わります。 それでは、地盤調査の結果で地盤改良が必要になった場合、どのような工事が行なわれるのでしょか。工事の種類と各々のメリット・デメリットや費用の目安。工事発注時の注意点を次回、解説します。